告発−人工透析死


告発−人工透析死
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 第81号 (2002年2月3日発行)

注意:この本は現在行われている人工透析療法に対し、明らかに不適切な表現や、いたずらに透析に対する恐怖心を煽りたてると思われる部分があるため、これから透析を導入する人その家族、また透析に関する一般的知識や現在の透析療法の現場を見たことのない人にはお勧めできません。あくまでも、透析を受けていたり、現在の透析療法の現場を知っている人を対象としておすすめしています。

何ともショッキングなタイトルで、思わず買ってしまいました。届いた本を見て更に驚いたのは、著者が医学博士であったことです。一般の方が書かれたのならともかく、お医者さんの目から見ての人工透析死であり、告発であるということは、よほどずさんな透析死を迎えられたのだろうと思いました。

内容はここに書ききれるものではありませんので省略させて頂きます。あらすじは、著者の息子さんは、糖尿病性腎症を発症し、透析を受けていましたが、ある日、突然に帰らぬ人となってしまいました。その時の経験を基に、著者が透析の悪を指摘しています。著者の指摘するずさんな点は何カ所かあり、死後の病院側の対応にも悪い点があります。透析に関わる一人間として、とても恥ずかしいことだとお詫びしたいと思います。しかし、確かにずさんな透析死であったかも知れませんが、そこまで透析を恨む必要性があったのだろうか、という疑問にも駆られました。

著者の定義する「腎臓透析病(人工透析の闇の部分)」は、治る見込みがなく、ただ死を待つだけと書いています。その意味では治る見込みが少しでもあるガン患者のほうが幸せだとしています。しかし、腎不全末期になり、腎機能がゼロに等しくなってもなお生きることができるのは、透析のためではないのですか。かつては末期腎不全になったら死を待つしかなかった、それが現在では透析により生き延びることができるというのは、素晴らしいことではないのでしょうか。透析を受けていても、結局は死を待つのに変わりがない、という意見もあるでしょうが、それは透析を受けていなくても同じ事です。数々の報告、証言により、透析療法が延命治療を超えたものになっているのは明白な事実です。

透析を受けるとかなりの体力を消耗し、その日はずっと寝ていなければならない、と書かれていました。しかし、それは個人差もあります。朝透析をして、昼からバリバリ働いている人もいます。逆に朝から働いて、夜間に透析を受ける方もいます。そのような事実を一切隠して(書かずに)、透析患者さんを生きる屍のごとく評するのは誤りだと思います、いや事実の歪曲です。ましてや、医師なのですから、この本を読んだ方が、「医者がこう書いているんだから間違いない」と誤解してしまいます。専門外の分野とはいえ、医師という肩書きがある以上は、しっかりと事実は事実として伝えて頂きたいと思います。著者はいったい透析をどこまで知っているのか、というよりも、現在の人工透析療法の現場をどれだけ見たのか、というのが全く見えてきません。

ある物体に光が当たれば、当然のことながら陰もできます。光が透析療法という医学の進歩だとすれば、陰の部分が、著者の定義する「腎臓透析病」です。光が薬剤であれ、他の治療法であれ、必ず副作用という名の陰ができます。それを、なぜ透析の陰ばかり追っているのでしょうか。透析に導入せずに死んでいた方が幸せだったのでしょうか。筆者はそのことに対して本文中で否定していますが、何度読み返してみても「死んだ方が幸せではなかった」ということに対する疑問が解けません。

この本は、患者、スタッフに関係なく透析に関わる人すべてに読んでもらいたいと思います。ただし、これから透析を導入する人やその家族、また透析に関する一般的知識や現在の透析療法を見たことのない人にはお勧めできません。ここに書かれている透析の姿がすべてではありません。一人の人間の末路が、果たしてこれで良かったのか。残された家族の胸中はどんなものなのか。そして、病院側の対応は本当に良かったのか。一人ひとりがゆっくりと考え、答えを見つけ出していかなければならない問題を提起していると思います。

図書名:告発−人工透析死
著者:山崎敏子
価格:1200円(税抜)
発行所:現代書林
ISBN:4-7745-0118-2  bk1 amazon



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