透析生活もまた楽しからずや


透析生活もまた楽しからずや
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 第92号 (2002年2月24日発行)

筆者は1993年7月に透析導入し、ほどなく腹膜透析に変更し、現在に至っています。この本では、筆者の透析導入前後から現在に至る生活の経過が描かれています。透析導入と腹膜透析への移行、職場復帰とその後、再婚、旅行の体験談、透析導入後の心境の変化などが書かれております。

一般の人にとって、透析というのは全く未知の世界であり、知っていても誤った知識や偏見のこともあります。しかし、この本を読んで頂くと、透析を受けていても社会復帰も可能だし、海外旅行を楽しむことだってできるのだということを理解して頂けると思います。医学的に難しい語句や言い回しはなく、普通のエッセイと同じペースで読み進めていくことができます。透析導入を言い渡されて落ち込んでいる方には、まさにうってつけの本だと思います。

しかしながら、血液透析に関する記述は、誤りを多く含んでおります。例として挙げますと、「生の果物はカリウムが多いので、(血液)透析患者は食べてはいけない」、「腹膜透析で、薬液が体内に入っていれば何を食べてもかまわない」とありますが、これは間違いです。メールマガジン上でも何度か書いたとは思いますが、基本的に、透析患者さんが食べてはいけないものというのはありません。ただ、量を控えめにし、他の食品からのカリウム摂取を減らすなどの工夫をすれば、生の果物を食べることは可能です。実際、四季折々の果物を堪能している患者さんもいます。また、腹膜透析であっても、血液透析ほど厳しくはありませんが、食事制限は必要となります。このほかにも、明らかな間違いや、血液透析に対する偏見らしきものがまだあります。本を出版する前に、透析に関する記述を専門の人に見てもらっていないような印象があります。

もうひとつ残念な点は、最後の最後に出てきた「透析生活ほどつらいものはない」という言葉です。これは、糖尿病患者へ、糖尿病性腎症にならないように、という警告のなかで出てきた言葉ですが、タイトルにもなっている一番伝えたかったメッセージ「透析生活もまた楽しからずや」という言葉を一気に吹き飛ばしてしまうものだと思います。もう少し緩やかな表現にできなかったのかな、と思います。

この本は、自分の経歴を恨むのでもなく、自慢するのでもなく、ただ淡々と、そして明るく前向きに綴っています。一人の透析患者としての生き方を示し、不安に恐れおののく透析患者への道標となり得る本だと思います。

図書名:透析生活もまた楽しからずや
著者:吉田晴美
価格:1000円(税抜)
発行所:文芸社
ISBN:4-8355-2218-4  bk1 amazon



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