夜の透析室から


夜の透析室から
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 第124号 (2002年6月30日発行)

この本は、季刊雑誌「こころの看護」に掲載された内容の一部をまとめたもので、透析から移植、そしてウィルス感染による半身麻痺と、医療のまっただ中から感じたこと、考えたことを、患者の視点から自由に書いたものです。

この本の特徴は、思ったことを、本当に自由奔放に書いていることです。内容ですが、一部にかなりの偏見が含まれています。あとがきに、「看護婦に敵意を持っているのではないか、という内容の電話が編集部にあり、ショックを受けた」と書いてありますが、それも納得できる内容です。その一例を示しますと、穿刺のうまい主任さんが失敗したとき、一度抜いて刺し直して欲しいといったが、主任は抜かずに刺し直した。結局入らずに針を抜いたが、主任にとっては患者の痛みよりも、穿刺がうまいという自己のメンツの方が上なのだ、と結論づけております。文面から察すると、この方のシャントは相当困難なようで、よく失敗をされるということから考えても、安易に針を抜くよりも、入れたままで再挿入した方が、血管に入る確率は高いと思います。通常、穿刺は広範囲にというのが原則ですが、それは「刺せる」という前提の元であり、穿刺が難しい人の場合であれば、できるだけ刺せそうな部分から刺していきます。そして、一度失敗をした部分は、すぐに刺し直すことはできません。そのため、この針を抜いて他の場所に刺して成功する確率よりも、今の針をそのまま刺し直したほうが、血管に届く可能性が高いと判断したものと思われます。これはあくまで推測ですが、著者はこのようなことを考慮したとは文面を見ている限りでは感じられませんでした。

もちろん、偏見は一部であり、他はまっとうなことを述べられています。「お変わりなかったですか」と聞かれて、嫌みをこめたジョークのつもりで「もう透析しなくてもいいくらい元気やわ」と答えたら、看護婦、婦長、主治医に説教された、という話がありました。この程度の話なら、透析室では日常茶飯事で、私もこのような会話は経験しています。そんなことを気軽に言うのであれば、冗談に決まっているのです。もし本気であれば、その時の雰囲気で自ずと分かるはずです。状態を聞きにくる看護婦さんであれば、ある程度の経験を積んでいるでしょうから、それを見抜けなかったというのは、その人の技量の低さなのか、それとも本文中に書かれているとおり「大マジメ」なのか、はたまた患者全体が「大マジメ」で、看護婦さんの方に免疫がなかったからなのかと、色々考えてしまいます。医師のインフォームドコンセントに関してもしかりです。インフォームドコンセントにかこつけて、自分の意見を押しつけようとする医師に最後まで抵抗した話がありましたが、これは医師の行きすぎです。確かに週2回よりも週3回の方が良いでしょうが、患者さんが希望し、週2回でも維持できるだけの腎機能が残っているのであれば、週2回でも良いと思います。

「これらの文章は看護婦さんへの敵意ではなく、愛情から出てきたものだ」と、あとがきには書いてあります。そして、「敵意と捉える看護婦さんがいると悲しくなる」と続けています。しかし、私は敵意と捉える看護婦さんがいて当然だと思います。そして、愛情があるからこそ、敵意を抱かれても、自分がおかしいと思ったことを、勇気をもって発表されるものだと思います。愛情を敵意と捉えられる例というのは、私たちが患者さんに注意する場面によく似ています。「体重が多い」、「カリウムが高い」などと、口うるさく言うのは、患者さんへの愛情からなのです。しかし、患者さんにとってはひどく耳障りで、時に敵意を抱かれることもあります。私たち透析室スタッフは、そのような敵意を抱かれても、決して悲しくなる必要性はありません。うわべだけの親切を装って不都合なことを言わずに好かれるよりも、敵意を抱かれてでも、患者さんをより良い方向へ導くことを選ばなければなりません。著者もまた、このような気持ちを持って、たとえ敵意を抱かれようとも、自分がおかしいと思うことは堂々と主張して頂きたいと思います。その努力は、きっと実を結びます。

最後に、私は敵意を持つ看護婦さんを肯定するつもりもありません。敵意を抱く患者さんを形成したのは、自分たち看護婦をはじめとする医療スタッフである、ということを認識する必要があります。反省するべき点はしっかりと反省し、その上で反論するべきところは反論していくべきだと思います。相互理解は、ここから生まれるのだと思います。

図書名:夜の透析室から
著者:呉那加文
価格:1500円(税抜)
発行所:サンルート・看護研修センター
ISBN:4-915949-41-9  bk1 amazon



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